八幡系 (15) 縮み志向の鍾馗さん2010年10月01日 23時47分36秒


近江八幡市十王町の鍾馗さん
(近江八幡市十王町)

一見して八幡系の特色を備えていますが、棟瓦一体ではなく
足は広げていません。
それどころかこの鍾馗さん、何か小さく小さくまとめようとする意図が感じられます。
左手と右手は前で交差させています。
足はどこにあるのかよくわかりませんし、左肩が妙に膨らんでいます。
どれだけ見てもポーズがよくわからないのです。

サイズは違いますが、根付を見ているようで、
作者が技巧を誇っている感じですね。


八幡系 (14) 細部に影響を残す遠縁2010年09月30日 23時45分43秒


近江八幡市長光寺町の鍾馗さん
(近江八幡市長光寺町)

技巧に走ってともすれば人間離れした雰囲気を漂わせる八幡系鍾馗さんですが、
これはどちらかというと写実的な造形に向かった一体です。

八幡系の特徴が細部に見られますが、筋肉の浮き出た腕や
リアルな指の造形は近代彫刻のようです。

寺本仁兵衛の一門に属する鬼師が製作したものだと思いますが、
確かな腕前が判ります。

それにしても鬼はちょっととってつけたような感じ。
胸から下はどこへ行っちゃったのでしょうか?



八幡系 (13) 偉丈夫2010年09月24日 22時33分39秒

野洲市三上の鍾馗さん
(野洲市三上)

管理人の知る八幡系では最もマッチョ系の風貌です。
八幡系のお約束をほぼ踏襲していますし、
鬼瓦の両袖部をうまく鍾馗さんの翻る袖に合わせる工夫といい、
これは八幡系に違いありません。

若干丸顔であることと、細かい装飾が少ないことで
典型的八幡系とはかなり異なった雰囲気となっています。

元々は大棟をまたいでお寺を睨んでいたと思われますが、
現在は建て替わった家の軒でお寺に背を向けています。

銘は確認できません。

八幡系 (12) 正統を引く、少し崩れた二枚目2010年09月22日 23時31分26秒

滋賀東近江市蛇溝町の鍾馗さん

(東近江市蛇溝町)

この鍾馗さんも、特徴を備えた典型的な八幡系です。

ごらんの通り、なかなかのイケメン。
衣装に彫られた文様も非常に繊細でトップクラスの細工。

元々は大棟の端で、巴瓦をまたいでお寺に対峙していたと思われますが、
新居では軒下をあてがわれて、若干居心地が悪そうです。

反対側から見るとこんな顔になります。
滋賀東近江市蛇溝町の鍾馗さん

左右の目の大きさがずいぶん違ってアンバランスなのが
気になって仕方がありません。

今回のシリーズの最初の方で紹介した、
超絶技巧の鍾馗さんたちに比べるとサイズも小さめで、
技術的にも少し差があるように思えます。

寺本仁兵衛作の立派な鍾馗さんは手が届かなくても
これくらいなら一般民家でも手が届き、サイズも手ごろ。

この鍾馗さんは唯一無二で、他では見つかっていませんが、
八幡系鍾馗にも、低コストで徐々に量産可能な「型もの」が
現れて以降は手びねりで普及していったと思われます。

八幡系 (11) 見得のポーズ2010年09月21日 23時00分02秒


安土町西老蘇の鍾馗さん
(近江八幡市(旧安土町)西老蘇)

棟端瓦(鬼瓦)ではなく、単独であげるために焼かれており、
衣服の幾何学文様は入っていませんが、
全体から受ける第一印象は紛れもなく八幡系です。

複雑で凝ったポーズに、細部の技巧を織り込みながら
全体として流れるように破綻なく仕上げています。
繰り返しの表現ですが、見得を切る歌舞伎役者みたい。

また、風が後ろから吹いていることを、髪や衣服のなびき方で表現しています。


安土町西老蘇の鍾馗さん

別の角度から。

野洲市木部の鍾馗さん

先日掲載のこちら(野洲市木部)と表情がよく似ています。
見得のポーズ系であることも共通。

八幡系 (10) 八幡系の極北2010年09月20日 23時12分32秒

八幡系鍾馗といえば、高い技術を惜しげもなく駆使した
技巧派なのですが、中にはこんな八幡系も存在します。
八幡系が到達した一方の極地とでもいえましょう。

彦根市清崎町の鍾馗さん
(彦根市清崎町)

条件1)、2)に該当するので一応、私的分類では八幡系に入るのですが、
相当な異形。

最初見たときは鍾馗なのかどうかも定かでなく、
しばらくは前にたたずんで眺めていました。

彦根市清崎町の鍾馗さん(顔)
顔。人間離れしてます。
髭は八本足みたいで、本気で最初はタコだと思った。

彦根市清崎町の鍾馗さん(手)
素朴極まりない剣を持つ右手の造作。上にちんまりとあるのは肘?

先週紹介したこちらの鍾馗さんとは、比べるのが申し訳ないほどです。


それでも、形式といい、大仰なポーズといい、
作者が八幡系の基準作品を何か見て、その再現を試みたと想像します。

写真が普及する前の時代、せいぜいスケッチか、記憶だけを頼りに
工房で作った鍾馗さんは、オリジナルとは似ても似つかぬものになりましたが、
こうしてユニークな作品として結実し、100年後の物好きを喜ばせています。

八幡系 (9) 野生的な外戚2010年09月18日 22時19分03秒

近江八幡市船木町の鍾馗さん
近江八幡市船木町【0546】 詳しい紹介はこちら

安土町小中の鍾馗さん
近江八幡市(安土町)小中【1216

どちらも八幡系の特徴をよく備えています。
まとめて紹介したのはその雰囲気が非常に似通っているためです。

ただし正統派八幡系鍾馗さん(たとえば)に比べると、表情はワイルドで荒武者風。
いっぽう衣服のディテールはそっくりで、かつ非常に緻密。

さらに二つとも左右の脚部は分割され、胴とは別に焼かれています。
これは元祖八幡系と共通の手法で、八幡系でも他にはほとんど見られない特徴。
(ただし船木町のほうは正確には胴と両足の二分割ですが)

さらに、
安土町小中の鍾馗さん【部分】

小中の鍾馗さんの右手の上あたりには、小さく「舟木」の銘。
船木町の鍾馗さんとの関係を強く想像させられます。

ところが、
近江八幡市船木町の鍾馗さん【部分】

船木町の鍾馗さんの右足には「瓦外」の銘。
ここに「舟木」と入っていれば話はわかりやすいのですが・・・(^^;


情報は少ないながらも、こうして色々推理(想像?)できるのも
八幡系鍾馗さんの楽しいところです。

八幡系 (8) 八幡系元祖の作品?2010年09月17日 22時10分01秒


東近江市五個荘塚本町の鍾馗さん
東近江市五個荘塚本町

ちょっとこの鍾馗さんにはそぐわない、小さな公民館風建築に乗っています。

鋭い目つきがかっこいい鍾馗さんですが、
典型的八幡系というわけではありません。

先に示した八幡系の五つの特徴
1)棟端鬼瓦と一体で成形・焼成
2)棟巴瓦をまたぐように両足を広げて踏ん張っている。
3)細長い顔に、彫りが深くバタ臭い目鼻立ち。
4)七宝などの装飾文様を衣服に散らす。
5)袖や裾には装飾の細いストライプが入る。

該当するのは1)と2)だけです。
しかしこの鍾馗さん、横に回るとこんな銘が彫られています。
東近江市五個荘塚本町の鍾馗さん(銘)

AR.Drone があればもう少しきちんと撮れるかもしれませんが、
(賀)村 仁兵衛 と読めます。
もうお分かりの方もいらっしゃると思いますが、
かわらミュージアム収蔵の八幡系元祖
寺本仁兵衛 作ではないかと思われます。
もちろん代々の名乗りなので、これだけで時代はわかりません。
また、寺本家は八幡の多賀村に居を構えており、
「賀」の字は定かではありませんが、「多賀村」だといいな・・

背後の棟瓦とは色合いも異なり、別の場所から移されたのではないかと思います。

同じ建物の反対側にはもう1体。
東近江市五個荘塚本町の鍾馗さん

こちらは銘は確認できませんが、様式から見ても明らかに同一作者です。

東近江市五個荘塚本町の鍾馗さん(クローズアップ)
バストショット。
驚いたのは眼の表現。
瞳孔まで表現されていて、白目の部分には光沢があるようです。
まさか仏像みたいに玉眼を埋めたりはしないと思うので、
ここだけ釉薬を乗せたのか、はたまた磨いたのか。

いずれにせよ、並々ならぬ表現へのこだわりが感じられ、
「八幡系恐るべし」との感を深くします。


八幡系 (7) 執念の彫り2010年09月16日 23時36分47秒

東近江市綺田の鍾馗さん
(東近江市綺田)

この鍾馗さんも典型的な八幡系の優品。
棟端瓦と完全に一体化しています。

この鍾馗さん、細部へのこだわりがすごい。
東近江市綺田の鍾馗さん右手
右手部の拡大
鍾馗さんらしくない、細くて筋張った指の質感は
一般的な瓦鍾馗さんとは別次元。
波打つ袖と衣服の装飾も深く鋭く彫り込まれています。

東近江市綺田の鍾馗さん左手
こちらは左手、左足。
執念を感じます。

残念ながら、銘は確認できませんでした。


この鍾馗さんのある綺田は、「びわ湖空港」建設予定地すぐ近くの
静かな集落です。
空港計画は白紙撤回のようで、余所者の勝手な感想ですが、
完成のあかつきにはこの静かな集落と鍾馗さんがどうなっていたかと思うと
ほっとしています。

はっきり言って交通の便はめちゃ悪いところ。
こんなところに空港作ったところで、
滋賀県の人だってあまり使わないでしょ。

八幡系 (6) 直系優品 安土町西老蘇2010年09月14日 23時46分07秒


安土町西老蘇 八幡系鍾馗さん
近江八幡市(旧安土町)西老蘇

昨年暮れに発見した、八幡系の最高峰ともいえる鍾馗さん。
中山道武佐宿のすこし東、街道沿いの旧家の屋根でお寺を睨んでいます。

かわらミュージアムの元祖八幡系と非常に近い様式を保っています。
これでもかとばかりに装飾を施し、飾り立てた姿は勇ましく華やか。
歌舞伎役者のようです。

画面右下部分には銘が入っています。
「光定」 「清輔」 (輔の字はこの写真では見えません)

どんな人かはわかりませんが、寺本仁兵衛の直系なのは
間違いないでしょう。

この旧家には、反対側にも八幡系の特徴を示す謎の人物像。
安土町西老蘇 鍾馗の裏の謎の人物像
鍾馗ではなく、仙人みたいな雰囲気ですが由来は不明。
類似の人物像を滋賀県内で他に2体見つけています。

しばらく、八幡系鍾馗さんの数々を紹介していきます。