八幡系 (15) 縮み志向の鍾馗さん2010年10月01日 23時47分36秒


近江八幡市十王町の鍾馗さん
(近江八幡市十王町)

一見して八幡系の特色を備えていますが、棟瓦一体ではなく
足は広げていません。
それどころかこの鍾馗さん、何か小さく小さくまとめようとする意図が感じられます。
左手と右手は前で交差させています。
足はどこにあるのかよくわかりませんし、左肩が妙に膨らんでいます。
どれだけ見てもポーズがよくわからないのです。

サイズは違いますが、根付を見ているようで、
作者が技巧を誇っている感じですね。


2010/10/2 宇治・醍醐・山科2010年10月03日 20時43分41秒

好天の土曜日、3週連続での京都です。

先週が西陣あたりの洛中、先々週は舞鶴・綾部と毎回行き先は違いますが・・

今回は近鉄久津川駅を起点に、宇治市内で山之内、伊勢田、小倉と古そうな集落を縫い歩いて宇治市街地へ。
平等院周辺をしばらくうろうろした後は宇治川右岸に渡って
黄檗、木幡、六地蔵と経由して京都市内に。

日野に回り道したあと、醍醐寺にみちくさして山科駅まで約30kmの行程でした。

成果はというと見事に外れ。
見つかった鍾馗さんの数は12体。
少ないだけでなく、これといった見るべき鍾馗もなく、寂しい結果でした。
先週の洛中では200体の鍾馗さんを眼にしていますので、
落差が激しい。。

同じ京都府内でも、鍾馗密度は極端に違います。
洛中の密集地は別格としても、
洛外でも伏見街道沿いなどは絶え間なく鍾馗さんが見られますし、
西のほうでは田辺から八幡にかけても、まずまず残されています。
それに対して東の山科、宇治、城陽あたりはどうやら鍾馗さんが少ないようです。

こういった鍾馗の粗密は他の地域でもよくあることですが、
その理由となるとなかなか思い当たるものがなく、首をひねるばかり。

こういう日は歩いていても他のものに眼が行きます。

そういえば今年の春に京都の塔めぐりをして、
市内では唯一、醍醐寺に行っていなかった事を思い出し、
拝観してきました。
醍醐寺 五重塔

平安中期の建造で五重塔では京都ではもちろん最古、
日本でも法隆寺、室生寺の次くらいに古いはずです。
近世の塔に比べて、上層が小さくなっていて、軒の張り出しも大きいので
素人目にも安定感があり、華やかな印象を受けます。

これで京都市内の五重塔、三重塔は「コンプリート」(^^;

思いつきで行動しているので、広角レンズを持っておらず、
パノラマ撮影でつないでいます。
ところどころつなぎ目がずれていますがご容赦を。


=PR=

昨日ですが、「みちくさ学会」第3回記事が掲載されました。
よろしければお寄りください。

八幡系 (16) 量産化への流れ2010年10月04日 23時36分01秒


東近江市鈴の鍾馗さん
(東近江市鈴)

ご覧のとおり、八幡系のお約束を守った鍾馗さんです。
ただ、本流八幡系と比べると、なんとなくライトな仕上がり。
衣服の文様も簡素化されているし、鬼瓦の地も無地ですが、
本流だったらこのスペースはきっと何かで埋め尽くしそうな気がします。

同日に近所でまったく同じ鍾馗さんを発見しました。

東近江市宮川の鍾馗さん
(東近江市宮川)

ということは、この鍾馗さんは型で作られて、
量産を意識した製品ということになり、
そういう目で見てみれば、極端な突起物がなく、
型抜きのしやすさを考えた形状になっています。

東近江市鈴の鍾馗さん

はじめの鍾馗さんを左側から見たところですが、
片側の鬢は枠から飛び出してしまうので省略されています。

八幡系も一般民家の需要が増えるにつれ、こういった普及版が
作られるようになっていったのではないかと推測されます。

本流のような豪華鍾馗さんはお値段もそれなりに張ったと思われますし、
庶民の家にはちょっと似合わないですからね。

実際に分布地で見られる八幡系の多くは、そうした量産タイプですが、
それぞれ八幡系の特徴をとどめています。

八幡系 (17) 湖西唯一の発見例2010年10月05日 23時09分31秒

八幡系鍾馗さんはほとんどが近江八幡市、東近江市を中心とした
湖東地方に集中しています。
八幡系分布図
(八幡系鍾馗さんの分布)

これまで唯一、琵琶湖西岸で見つけたのがこの鍾馗さん。
大津市和邇北浜の鍾馗さん
(大津市和邇北浜-旧志賀町)

残念ながら正面からの撮影は不可能でしたが、
同じ鍾馗さんを別の場所で、1体見つけています。
近江八幡市船木町の鍾馗さん
(近江八幡市船木町)

細長い顔にぎょろ目、垂れたような頬、逆立つ鬢と、
表情に八幡系の特徴を色濃く示しています。
左手で右袖をつかんでいたりと、手にも表情があります。

あぐらをかいて悠然と座っています。
八幡系では座った鍾馗さんがよくあるのですが、
一般には座った鍾馗さんはかなり珍しいもので、これも八幡系の特徴と言えます。

地図で見ると、西岸とは言えこのあたりの琵琶湖はごく狭く、
小舟でも、渡るのにはさして時間はかからないでしょう。
もっと西岸で八幡系が見つかってもいいように思うのですが、
かつての瓦屋の商圏は小規模だったんでしょうね。

八幡系 (18) ぎりぎり八幡系(^^;2010年10月06日 23時20分30秒


愛荘町内野の鍾馗さん
(愛荘町平居)

これが八幡系?という鍾馗さんで、管理人にも迷いがあります(^^;

改めて、勝手に決めた八幡系の特色(2個以上該当なら認定)
1)棟端鬼瓦と一体で成形・焼成
2)棟巴瓦をまたぐように両足を広げて踏ん張っている。
3)細長い顔に、彫りが深くバタ臭い目鼻立ち。
4)七宝などの装飾文様を衣服に散らす。
5)袖や裾には装飾の細いストライプが入る。

3)と5)にかろうじて該当かなぁ?
頬の垂れ方は八幡系ならではの特徴です。

型抜きではない、一点ものの鍾馗さんのようです。
決して寺本家で修行したような正統派ではないと思いますが、
少なくとも八幡系の類例を目にして、
製作の参考にしたのではないかと推測します。

技巧を凝らした八幡系のような鍾馗さんだけでなく、
こんな素人っぽいものが存在することも鍾馗遍路の醍醐味です。

八幡系 (19) 普及版といっぴん物の違い2010年10月07日 23時02分49秒

東近江市蒲生堂の鍾馗さん
(東近江市蒲生堂)

八幡系の5つの特徴をすべて備えています。
ところが、全体から受ける印象は、なんとなくぼんやりして頼りない印象です。

比較対象として、優品のこちらと比べてみることにします。

東近江市綺田の鍾馗さん
(東近江市綺田)

左足部のアップで比べてみましょう。
左が綺田、右が蒲生堂
細部の比較

デザインは酷似していますが、違いは一目瞭然ですね。
エッジがシャープな綺田に対し、蒲生堂のほうはもやもやしています。

おそらく綺田のほうは職人の手作りで、へらで丹念に造形されたものですが、
蒲生堂のほうは型抜きで作られたものでしょう。
細工が細かければ細かいほど、どうしても角をくっきり出すのは
限度があるようです。

同じ鍾馗さんを東近江市内でもう1体見つけていて、
このことも型で作られていることを示唆する傍証です。
東近江市下麻生町の鍾馗さん
(東近江市下麻生町)

これだけで見れば十分上等な鍾馗さんなのですが、
仲間のレベルが高いので、大変です。

八幡系 (19) なごみ系2010年10月08日 23時49分39秒


竜王町小口の鍾馗さん
(竜王町小口)

一見した印象では「これが八幡系?」ですが、
例の5条件のうち、3つに該当します。

確かに仔細に見ていくと、八幡系の影響を受けたと思われるところが
そこここに。

もっとも八幡系から遠そうな顔も、頬の垂れているところなど
ディテールは結構共通なのです。

顔の比較

どうでしょう?
決して似てないのですが、パーツは結構同じものがあったりしませんか?


八幡系 (20) 量販された末弟2010年10月09日 23時35分41秒

竜王町山之上の鍾馗さん
(竜王町山之上) 髭の毛彫り:ほとんどない

この鍾馗さんも典型的な八幡系の特徴を備えていますが、
量産型で、これまで20体以上を発見しています。

もちろん型で作られていると思われます。
最後の仕上げのへら跡の違いで、
下のような微妙なバリエーションが
いろいろありますが、まあ、誤差の範囲です。

竜王町山之上の鍾馗さん
(竜王町山之上) 髭の毛彫り:細かい

近江八幡市上田町の鍾馗さん
(近江八幡市上田町) 髭の毛彫り:中間


せっかく巴瓦をまたげるよう、くぼみが作ってあるのですが、
他の八幡系のように大棟端の鬼瓦として置かれているものは
あまりなく、3体ほど見ただけ。他は上ののように
棟や軒に普通に置かれています。

東近江市五個荘塚本町
(東近江市五個荘塚本町)

珍しく棟端に置かれたケースを見てみると・・
巴瓦のサイズに対して小さすぎて、収まりが悪いですね。

原型作成者の設計ミスだな(^^;


八幡系 (21) 末裔の兄弟たち2010年10月10日 23時20分33秒

簡略化が進んでいるものの、一見して八幡系と気づく鍾馗さんが
結構いろいろ見つかります。
今日はまとめてご紹介。

近江八幡市北津田町の鍾馗さん
(近江八幡市北津田町) 何気なくたたずむ。
東近江市外原の鍾馗さん
(東近江市外原) あぐら?
近江八幡市出町の鍾馗さん
(近江八幡市出町) 同
竜王町山之上の鍾馗さん
(竜王町山之上) 抜き足差し足。
東近江市五個荘塚本町の鍾馗さん
(東近江市五個荘塚本町)
不自然に身体を傾けながら、見得を切ろうとしています。

これらは主に顔の表情がよく似ていて、
共通の八幡系工房出身じゃないかと思っています。

八幡系 (22) 日野町のいとこ2010年10月12日 23時30分05秒

日野町付近だけで見られる一群の鍾馗さんです。

東近江市高木町の鍾馗さん
(東近江市高木町)
こちらはまだ「八幡系」らしい雰囲気を持っています。

日野町内池の鍾馗さん
(日野町内池)

上とよく似たこっちになると、「八幡系」というのはちと苦しい。


日野町清田の鍾馗さん
(日野町清田)

この鍾馗さんになると・・・
上の2体と共通のぬるっとした雰囲気を持っているので、
博物館には#0898としてまとめていますが、
下のような鍾馗さんと同じ「八幡系」系列とは、
ふたつ見比べただけでは信じられません。

安土町西老蘇 八幡系鍾馗さん


一昨日掲載のような、八幡系末裔を見た日野の地場の瓦職人が
見よう見まねで作った鍾馗さんではなかろうかと推測します。